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(idea2026年2月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
地域の産物を活用し、その風土に適した方法で調理され、食べ伝えられてきた「郷土料理」。その地域の暮らしや文化にも思いを馳せられる料理であり、観光や地域おこしの素材として用いられることも多くあります。「古くから変わらぬ味」というイメージのある「郷土料理」ですが、食材や調味料には変遷がある中、実際にはどれくらいの歴史があるのでしょうか?今回は「はっと・すいとん」にスポットをあて、深掘りしてみました。
※記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。
食の多様化、生活様式の変化に伴い、いわゆる「郷土料理」が食卓に並ぶ機会が減った家庭も多いのではないでしょうか?物流が発達し、食材の幅が増え、様々な調味料が普及したことで、私たちの食卓は変化し続けています。
そんな中、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」。和食に欠かせないのが「出汁」です。その歴史を辿ると、霊亀元年(715年)の『続日本紀』に、具体的な食べ方は明らかではないものの、昆布は朝廷への貢納品であった事が記載されているほか、平安時代中期に編纂された『延喜式(律令の施行細則をまとめた法典)』には、陸奥国(概ね現在の青森県)では昆布、伊豆国(概ね現在の静岡県東部)では「堅魚(かたうお、かつお)」「煮堅魚(にかたうお)」「堅魚煎汁(かつおいおり)」※が、調(各地の産物を納めさせる税)として指定されています。※ いずれも鰹の加工品。堅魚煎汁は煮堅魚の煮出し汁を煎じ詰め凝縮した液体とされ、現代の出汁というよりも調味料の一種と考えられる。
それらは朝廷や貴族しか口にすることができないものでしたが、鎌倉時代に入ると、寺院を中心に味噌づくりの技術が発展、室町時代には農民層にも広まり、豆栽培が奨励されたため、自家用の味噌を作る農民も増えてきました。この頃に味噌汁が一般化されましたが、現代のような出汁を使ったものではありませんでした。
現代のような出汁が登場するのは江戸時代初め。焙乾技術の導入により現在のような「鰹節」が完成したことで、出汁という概念が認知されるようになっていきました。また、塩・味噌・砂糖・醤油・みりんなどの和食に使用される調味料も広く使われるようになり、現代に通じるような食文化ができあがっていったのです。
明治維新をきっかけに、675年以降禁忌視されていた肉食が解禁に。この頃から牛乳や乳製品も販売されるようになります。ソースやケチャップ、「味の素」など、様々な調味料が普及し、富裕層では日本化した洋食も食されるようになりますが、庶民(農民)は雑穀に味噌汁と漬物が基本で、味噌や醤油含め、自給自足でした。
日中戦争からの戦時下であらゆる食糧(調味料含め)が配給制となり、終戦後も昭和23年頃までは食糧難が続きます。その後、生活改善・栄養改善の様々な事業が行われ、庶民の食卓も徐々に変化していきました。
では現在伝わる「郷土料理」のレシピが確立されたのはいつ頃なのでしょうか?おそらく江戸時代にはその原型と言えるレシピが存在したと思われますが、上述の通り、出汁や調味料の普及タイミング、肉食の可否などによって、現代の味とは異なるものであり、庶民の食卓からは遠いものだったと想像できます。
それが、戦後の復興期、生活改善運動の一環で調理方法や栄養に関する見直し・指導が進められる中で、「その土地の産物をその最も養分の濃厚なる時期に利用する」郷土料理が改めて注目されたり、民俗学の発展で認知されたものも。さらには高度経済成長期以降、観光資源や地域愛を育む材料として、「郷土料理」が掘り起こされるなどし、現在に通じる味になっていったのではないかと推測します。
つまり、我々が認識している郷土料理は、江戸時代頃に原型ができ、明治維新や戦時下で下火となったものの、戦後に再び注目され「現代の食材で美味しく整えられたもの」なのかもしれません。
上記でご紹介したように、「郷土料理」が「郷土料理」として認識されるようになってからは日が浅く、さらに食の多様化はより進んでいます。そうした状況から、国や各自治体でも、郷土料理を次世代につなぐ取組に力を入れています。
当市域にも、「もち料理」を筆頭に、様々「郷土料理」と呼ばれるものがありますが、ハレの日の特別食だったり、あまり馴染みがないものも……。
そこで、「いちのせき市民フェスタ25」の会場内で、来場者に公開アンケートを実施!「あなたにとっての郷土料理は?残したい郷土料理は?」という設問で、より身近な「郷土料理」をピックアップしました。
最も多い回答は「はっと・すいとん」でした。
続いて「がんづき」や「もち料理」、その他「しそ巻」「ばっきゃみそ」「すす漬け」「みょうがの葉焼き」「笹もち」「炒め納豆」「おこご煮」「きゅうりもみ」「果報団子」「げんべた」など、様々な料理があげられました。
<メモ>
・「はっと・すいとん」と「がんづき」は、10代~70代まで、幅広い層からの回答あり。
・本誌の表紙で紹介している「すす漬け」には若い世代からも「祖母が作ってくれた思い出の味」として回答が。
・「炒め納豆」は川崎保育園の給食
メニューとして、川崎地域住民には馴染みの味とのこと。
上述の通り、公開アンケートにおいて「残したい郷土料理」に最も多く名前があがった「はっと・すいとん」。しかし、料理名の時点ですでに「はっと」と「すいとん」で呼び名が分かれていたり、具材や味付けなども、明確に「一関ではこれ!」と言えるほどの共通認識がないのが実情であり、時代とともにその味が変化している可能性も……。
そこで改めて深堀りアンケートを実施し、アンケート結果をもとに、「一関における一般的なレシピ」を再現してみました!
一関市における「はっと・すいとん」の、現代における実態とは……!?
調査(回答)人数:69人
調査対象者:一関市民
1位「はっと(64%)」
2位「すいとん(25%)」
3位「つめいり/つめり(9%)」
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6割以上が「はっと」と呼称しているという結果に!
「すいとん」と答えた回答者数が多かったのは旧一関市エリアですが、旧一関市エリアの中だけで見ると、「はっと」と「すいとん」の割合はほぼ同等であり、旧一関市エリアにおけるスタンダードはどちらとも言い難い結果に……。
なお、「はっと」の回答割合が高かった(差がついた)のは花泉、川崎、千厩、大東、藤沢で、室根や東山は「すいとん」の回答も大差なくありました。
<メモ>「はっと」「すいとん」以外の呼称について
「その他」として、あがった「つめいり/つめり」「とってなげ」「ひっつみ」は、どれも調理の時の動作(生地を「抓りながら入れる」「ひっつまんで鍋に入れる」などの動き)が呼称の由来と言われます。なお、「とってなげ」は岩手県北で広く使われているそうです!
※「はっと」「すいとん」の由来は後述。
***【参考】地域別 回答結果***

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~ タンパク質部門 ~ |
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| 1位 | 油あげ(35%) | ||
| 2位 |
肉 ※鶏・豚肉(22%) |
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| 3位 | 豆腐(21%) | ||
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油あげが35%と1位の結果に! 2位に鶏・豚肉が同じ割合での回答でした。 また、複数組み合わせる家庭も多く、 「【私の定義】すいとん:肉入り(豪華)、はっと:油揚げや油麩(質素)」 という具材の使い分けをしている家庭もあるようです。 |
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| ~ 野菜部門 ~ | |||
| 一番多かった組み合わせ | |||
| 大根 にんじん ごぼう ネギ しめじ | |||
| 【その他具材】 | |||
| 白菜、ジャガイモ、ずいぎ、椎茸、エノキ、舞茸、 油麩、こんにゃく、さんまのすり身 等 | |||
| ~ 調味料部門 ~ | |||
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味付けは「醤油味」派が圧倒的! 酒、みりんで調味するほか、顆粒・粉末だしを使用する人多数 (出汁を取る人は少ない) |
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ほぼ全員が「生地を手で伸ばしながら汁にいれる」と回答!
その厚さや固さの指標は「耳たぶ」程度。厚さは3mm~5mmが多い回答でした。
※緩めの生地をスプーンですくって汁に入れるという地域もあるようだが、当地域では該当しないという結果。
<その他 および 補足回答より(一部)>
・なるべく薄く伸ばす。
・分厚く伸ばす。
・一度湯上げてから汁へ入れる。
・約3×3㎝の大きさに伸ばす。
・生地は寝かせてから使用する。
・生地を練る際に、オリーブオイルを入れる。
・かぼちゃばっとは、生地に練り込むのではなく汁に入れる具材。
など、厚さや固さ、サイズなど、各家庭にこだわりがあるようです。
9割が「日常の食事」として食卓に並ぶと回答。。その中でも、「夕食」として提供されるという家庭が多いという結果でした。
現代では、来客時の「おもてなし料理」や「行事食」など、「特別な日に作る」ことの方が多いのでは?という推測からの設問でしたが、今でも日常的に食べる家庭が多いことがわかり、安心しました(笑)
最も多かったのが、「汁物として食べる(ご飯とおかずは別に用意)」という回答。小麦粉で作った生地が入ってはいるものの、炭水化物要素は別に用意する家庭が多いようです。
※「主食として食べる=ご飯やおかずなし」という回答は3割で、川崎、千厩地域からの回答が多かった。
もっとも回答数が多かったのが、「半年に1回程度」で33%(年間2回程度)、次に「月1回程度」で27%(年間12回程度)と、食べる頻度は家庭によって大きく開きがある事が分かります!
「寒い時期に良く食べる」などの意見もあり、冬の楽しみとして食卓にあがっている家庭も多いのではないでしょうか?
全体の6割以上が、「母親や義母などから教えられた味」、あるいは「それらを再現したもの」を守り続けているという結果に。
一方で、アンケートに回答いただいた方の中には、「世代交代により、思いのほか易々と内容や味付けが変化していくものだと思う。」とのコメントもあり、味を受け継いでいくという事は、実は難しいのでは?とも考えてみたり…。
アンケートで深堀りをした「はっと」。
スタッフ内でも、使用する食材に違いがあったりしていたことから、実施したアンケートの食材で実際に調理してみることに!
Q2、Q3をもとに、出来上がった「はっと」が以下!
使用した食材
・油あげ
・大根
・にんじん
・ごぼう
・ねぎ
・しめじ
調味料
・しょうゆ
・だしの素(粉末)
その他、アンケートに寄せられた備考欄より、いくつかご紹介↓↓
・昔通っていた居酒屋さんで食べるひっつみは、飲んだ後の小腹の空いた所にしみる美味しさでした。目の前でクツクツ沸いた鍋にママさんがひっつみを、まさにひっつんで?入れていく様が懐かしく思い出されます。
・モクズガニの郷川崎ではガニばっとが昔から作られています。
・昔は家で兎や鳥を飼育しており、それをお正月につぶして年1回のご馳走になっていた。
・こどもの頃は「あずきばっと」などがおやつ。
・戦後にそればかり食べ過ぎたので嫌いになってしまった。
などの意見もあり、良くも悪くも「思い出の味」として記憶の中に残っている方も多いようです。
全国的には「すいとん(水団)」として各地に存在する料理ですが、小麦の生産が盛んだった当地域でも古くから食べられていたようです。「はっと」という呼び名の由来は、‘領主に「ご法度(はっと)」と食べるのを禁じられてもなお、農民たちが食べるのをやめられなかった(ほど美味しかった)ため’、という説が。ただ、戦時中には薄くといた小麦粉と、芋のつるや野菜の茎などで作った味のない「はっと汁」ばかり食べていたという話もあり、嫌な思い出として記憶されている世代・地域もあるようです。また、普段は質素な料理として食べていても、お正月や少し贅沢な時には肉を入れ、「幼少期のご馳走だった」というエピソードも聞かれました。
食材や味付けは異なるものの、親から子または祖父母から孫へと受け継がれてきた郷土料理。そこにアレンジが加えられ、新たな味付けが誕生したり、進化している家庭もありました。「郷土料理=身近な料理」として捉え、100年後にも「おいしいね」と笑い合える‘いつもの味’として、さりげなく残っていってほしいものです。
<参考文献>
〇岩手県一関市文化財調査報告書第10集 一関市食文化調査報告書(2024) 編・発/一関市教育委員会文化財課
〇食べよういわて 伝統食と食の匠の技(2011) 監修/岩手県 発/岩手県農業改良普及会
〇講座 東北の歴史 第二巻 都市と村(2014) 編者/平川新 千葉正樹
〇岩手ふるさとの味(2006) 編/岩手県生活研究グループ連絡協議会
〇マンガでわかる日本料理の常識(2021) 監修/長島博 発行者/小川雄一
〇調べて学ぶ 日本の衣食住(1997) 著者/桑畑美沙子 発/大日本図書株式会社
〇黄海村史(1960) 編/黄海村史編纂委員会
〇磐清水村史(1956) 編/磐清水村編纂委員会
〇郷土誌(民族)(1966) 編・発/津谷川公民館
〇東山町史(1960) 編/東山編纂委員会
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。
開館時間
9時~18時
休館日
祝祭日
年末年始
(12月28日から翌年1月4日まで)
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