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(idea2025年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
北上川の狭窄区間や砂鉄川、薄衣地内の千厩川等には「モクズガニ」が生息し、昔からカニ漁がなされていたとされ、川崎町の郷土料理「かにばっと」もカニ漁と関連した文化です。モクズガニは外海と繋がってさえいれば、日本のほとんどの河川に分布しており、上記以外の市内各地(河川)でも「昔はよく捕った」という声が。今回はモクズガニ漁にスポットをあてることで、「河川がくらしに与えてくれる(た)もの」を考えてみます。
※記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。
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日本全土およびロシアのウラジオストックから香港、台湾などに分布するモクズガニは、古くから河川における漁業資源ですが、海(河口/汽水域)で生まれます。浅海域で過ごした後、河川の汽水域で変態し稚ガニとなると、水温が上昇し始める春頃から河川の上流へと遡上を始めます。淡水域で脱皮を繰り返して成長、2~3年で成体となり、成熟した個体は秋頃から川を下り始めます。河口(汽水域)で交尾・産卵を行い、そこで一生を終える、というライフサイクルです(寿命は3~5年)。
「河口から100㎞程度は移動可能」という情報もあり、実際、昭和50年発行の文献には「厳美街道の両側にある水田の用水路に、戦前は多数のモクズガニがいたものである」「磐井川にそそぐ支流の久保川、市野々川、栃倉川その周辺の水田の側溝などにはまだいるようだ」という記述も。
市内各地でヒアリングをしていくと、北上川の二次支川や、近隣の沢(モクズガニは陸地を歩くこともある)などでも「昔はよくいた」という話が。また、北上川水系だけでなく、室根町の大川(大川水系/至気仙沼湾)や津谷川(津谷川水系/至小泉海岸)は、地域住民は「今はいないのでは」と言いますが、河口側の漁協に伺うと「今でも時期になるとたくさんいる」とのことで、当地域エリアまで遡上してきていると考えられます。
昭和50年代頃から、生息環境の変化に加え、乱獲等による影響もあり、激減した※1とはされますが、河口側の漁協によっては「カニ漁をする人が減ったことで、微増している気もする」という声もありました。
※1 モクズガニを守るため、平成8年から令和2年まで、川崎地域でモクズガニの養殖等を行う団体が活動しており、砂鉄川漁協等とも連携し、多数の放流を行ってきた。
モクズガニ漁は繁殖のために川を下っていく個体を狙うのが一般的です。下流部においては、その時期だと個体数が増えるため、獲れやすいということと、繁殖期が近づくと、生殖巣(卵巣等)が発達するため、「ミソが詰まっている」「オスは体が大きくなっている」など、より良い状態になっているという理由も。漁場によっても適期が異なり、狐禅寺地内の滝沢川では9月頃、北上川本流でも薄衣地内だと9月中旬、日形地内だと10月上旬、永井地内だと11月上旬というように、下流ほど遅くなっていきます。
ちなみに、繁殖直前に河口付近にいるモクズガニが一番美味しいのではないかと考えられますが、河口に近い漁協の方に伺うと「海の人間は海のものを食べるから、モクズガニを獲って食べることはまずない」とのこと。モクズガニ漁が盛んだった頃は、当地域の人が河口に近い河川の漁業権を取得し、漁をしていたそうですが、今はそうした人もいないとか……。
なお、獲ったモクズガニは、「かにばっと」などのモクズガニ料理を提供する店※2に卸したり、道の駅(市外)等で販売する人もいたそうですが、今も昔も、多くは自家消費用(知人への分配含め)だったようです。
※2 「北上川の川すじでは専門に食わせる店もあるようだ」と記載された文献や、「昭和50年頃には千厩駅の近辺にもかにばっとを提供する店が2~3軒あった」と話す人もあり、卸先が複数あった時代も。
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当地域の |
モクズガニの食べ方 |
スープとしていただくイメージがありますが、茹でて身やミソだけ食べるという人も。花泉地域などは後者が多く、すりつぶす川崎地域よりも、大きくて、ミソのつまったカニが獲れているのかもしれません。
| [川崎]かにばっとが有名。すりつぶしたカニ(甲羅ごと)を、布でこして出しとして使用。カニ味噌やカニの卵は最後に入れる。 |
| [花泉(日形)]茹でる |
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[花泉(永井)]茹でる、蒸す |
上記でご紹介したように、市内のほとんどの河川にモクズガニがいる可能性があり、今でこそ漁をする人は数える程度になりましたが、昭和50年頃までは、川沿いに生活する人を中心に、モクズガニが獲られていました。ヒアリングをしていくと、時代や河川の状況に応じて、様々な方法で「モクズガニ漁」が行われていたことが分かりましたので、ご紹介します。
市内でのヒアリングの結果、現在の主流は「カニ籠」を使った方法。餌を入れたカニ籠を水中に設置し、引き上げるというものです。ただし、砂鉄川では、手釣りしか許可されていないため、カニ籠の設置は不可。また、「漁業調整規則」において、日没後の漁が禁止されている川もあるため、カニ籠の設置可否、設置しておく時間には注意が必要です。
なお、大きなハサミを持つモクズガニは、籠の網目を切って脱走することも多々。市販のカニ籠を補強したり、丈夫な素材で自作したり、各漁師の経験と工夫が垣間見られます。
カニ籠が主流になる前は、日没後の延縄漁を楽しんでいた人が多かったとか。1本の長い縄に釣り針とエサをつけた短い縄をたくさんつけ、水中に沈めます。30分置き程度で縄を手繰ることを繰り返し、一晩で100匹ほど取ったという人も。狭い川では川を横断するように縄を張り、広く深い川では、流れに沿って縄を張り、船で行き来しながら行ったそうです。
餌を「たらばし(桟俵)※」につけて沈め、餌を食べに「たらばし」に乗ったモクズガニを引き上げるという方法で獲っていたという地域も(教えてくれたのは永井在住の方)。
※米俵の上下につける藁のふた(左画像参照)。
漁業権について
令和7年4月現在、市内の河川で漁業権が設定されているのは砂鉄川だけですが(右図参照。漁業権が設定されている河川は青線)、宮城県側に入ると、漁業権が設定されている河川(大川、津谷川、夏川)もあります。砂鉄川はモクズガニ自体に漁業権が設定されているので、漁をする際は遊漁券の購入が必要です。宮城県はモクズガニへの漁業権は設定していませんが、漁業権の設定された魚を同時に捕獲する可能性を否定できないことから、漁協によっては遊漁券の購入を求められる場合もあります。
餌として使用したものは、時代や手法によっても異なり、延縄漁の際には、タニシやツブ貝がメイン。
カニ籠では「カツオの頭」が理想という声が多かったものの、近年は入手が難しい(値が張る、あまり売られていない)ことから、「ブロイラーから鶏の頭をもらっている」「ニシンの頭などで代用している」など、「匂いの強く、簡単には食べられてしまわないもの」を調達しているようです。
カニ籠漁で重要になるのが、籠を設置する場所。モクズガニの生息場所は成長段階によって異なるとされ、成体は流れの緩やかな淵などにある岩陰等を好むとされますが、「水の流れに対して‘巻いている’場所」など、各漁師が経験を元に3~6か所ほど、籠を設置しているようです。漁をする人が多くいた頃は、暗黙の了解でそれぞれのテリトリーが決まっていたと言い、永井在住の畠山養喜さんは「先輩たちが良い場所をキープしていたため、新参者はあまり獲れない場所で籠をかけるしかなかった。今は漁をする人がいないので、獲れやすい場所を狙ってかけられる(笑)」と、今は先輩たちが使っていた「かけあがり」と呼ばれるようなポイントや、下が岩になっているような場所を水流で見つけ、カゴをかけているとか。
滝沢川や北ノ沢川など、支流の小さな川では、舟ではなく岸から直接籠をかける人が多く、「家の前から特に場所は狙わずに籠をかけるが、時期になれば獲れる」とのこと。北ノ沢川では今でも3~4軒がモクズガニを獲っているそうです。
※北上川においても、「漁業調整規則」の中で漁が禁止されている区域がありますので、漁場の選定時には確認が必要です。
当市では、収入源として扱う人はいないと思われるモクズガニ。漁は「趣味の一環」であり、秋の味覚としてキノコ狩りのような楽しみなのではと推測。「今でも‘かにばっとの会’として知人同士で集まって味わう」という人もおり、モクズガニは日常に「季節の愉しみ」をもたらす存在と言えます。
<取材協力(順不同)>
伊藤靖一さん(川崎)
佐藤賢二さん(弥栄)
千葉正夫さん(川崎)
畠山養喜さん(永井)
菅原清明さん(日形)
砂鉄川漁業協同組合
本吉町淡水漁業協同組合
気仙沼大川漁業協同組合 ほか
<参考文献>
一関市(1975)『一関市史第5巻』
公益社団法人日本河川協会「第6回日本水大賞」受賞活動の紹介ページより
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。
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