(idea 2024年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

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日々の暮らしに小さな「非日常」を

~「レクリエーション」で上げる「QOL※1」【前編】~

※1 「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」の略称。日本語では「生活の質」「生命の質」「人生の質」などと訳され、生きる上での満足度をあらわす主観的な概念・指標として、様々な分野で注目・活用されている。

 

にこにこプラザだいとうデイサービスセンターの施設内 「にこにこのど自慢」の様子が分かる掲示物 人物は菅原舞さん

「にこにこプラザだいとうデイサービスセンター」の施設内には、

同施設の名物行事「にこにこのど自慢」の様子が分かる掲示物(舞さん作)がズラリ。

レクリエーション介護士(1級)  菅原舞さん

 平成30年、岩手県内初のレクリエーション介護士1級資格を取得し、令和元年には2級の講座を開講することができる「認定講師」へ。「にこにこプラザだいとうデイサービスセンター(株式会社いわい)」に勤務しながら、各種講師依頼にも対応中。奥州市胆沢出身、千厩町磐清水在住。3児の母。

対談者 レクリエーション介護士(1級)  菅原舞さん

 

聞き手 いちのせき市民活動センター  センター長 小野寺浩樹

 平成25年度に民間資格※2として誕生した「レクリエーション介護士(以下、レク介護士)」。いわゆる高齢化社会において、「高齢者の生きる『喜び』と『楽しみ』を見出していく様々な活動」をコーディネートする役割です。当市在住のレク介護士に話を聞いていくと、そもそもの「レクリエーション」の考え方について、大きな誤解があることに気づかされました(2回シリーズの前編)。 

 

※2 「一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会」が経済産業省の平成25年度「多様な『人活』支援サービス創出事業」を受託し、その成果を活用して創設したもの。

小野寺 館内がすごく賑やかですよね。雰囲気が良いと言うか。

 

菅原 よく言われます(笑)今年9月からレク介護士の有資格者が私含め6人※3になったんです。常に誰かしらレク介護士がいる状況になったことで、賑やかさが増したのかもしれません。

 

※3 1級取得者1名、2級取得者5名

 

小野寺 菅原さんは県内で初めて1級資格を取得されたと聞きましたが、きっかけは?

 

菅原 私、約20年くらい介護の世界にいるんですが、体操やゲーム的な時間とか、人の前に出るのが嫌で仕方なかったんです。子育てをしながらの介護職となると選択肢はデイサービスしかなくて、デイサービスには苦手な「レクの時間」がある。逃げられる部分は逃げていたんですが、平成26年頃、外部からの余興だけでなく、職員が企画して、毎月、利用者様が楽しめるようなイベントをやろうという話になり、「職員余興」という案が出てしまったんです。

 

小野寺 人前に出るのが苦手なのに、余興は辛いですね……。

 

菅原 そうなんです。5分の持ち場をどうにかこなすために、古着の真っ赤なドレスをリメイクして、『真っ赤な太陽』を流したんです。カラオケに行ったこともない人間だったので、人前で歌も歌えないですし、ただただ凌ぐ……という状態でしたが、インパクトはあったので、一度やってからは出続けることになり、滑り倒し続けたんです。本当に辛くて、泣きながら帰ったこともあるくらいなんですが、会社からは、他のスタッフにもそういう芸を教えてくれと言われるようになりまして……。

 

小野寺 必死に凌いでいただけなのに、教える側に!?

 

菅原 10年かけて私と同じように滑り続ければ私になれるかもしれませんが、後輩に対してそんなこと絶対言えませんし。これじゃいけないと思って調べたときに、レク介護士という存在を知って、通信講座で2級を取ったんです。でも私は教える人になりたかったので、すぐに1級を受講しに東京に行きました。そしたら、目から鱗の話ばかりで、まだ1級に受かってすらいないのに、先生に「これを岩手で開くにはどうしたら良いですか」と聞いてましたね(笑)

 

小野寺 とにかく教えたい、という思いが強かった?

 

菅原 自分のような苦しい思いをして欲しくないという部分と、「レクリエーション」という考え方を改めて学んだら、これを知識として持ち合わせていることで、今まで苦しんでいたことが楽になるって確信したんです。

 

小野寺 レクリエーションって言うと、ある程度の集団で行う、お楽しみ活動のようなイメージが一般的だと思いますが……。

 

菅原 ですよね。「親子レク」なども馴染みがあると思いますが、介護の世界だと、基本的にはある一定の時間に設定された「集団レク」の時間を指します。私もそうした「集団レク」の時間のことだけを考えていたのですが、教えてもらった「そもそものレクリエーション」が、「生きる喜びや楽しみを見出すための活動」なんです。そして「高齢者にとってそれは本当に集団レクの1時間なのでしょうか」と問いかけられたんです。

 

小野寺 1時間の集団レクで「生きる喜び」までは難しいですねぇ……。

 

菅原 はい。日本ではレクリエーションという言葉を「余暇活動」と訳してしまったことで、日常生活とは切り離し、わざわざ時間を別に設定して何かをするようなイメージになっていますが、生きる喜びがそこにしかないわけがないんです。大袈裟に言えば、例えば朝起きて、まず何をしようか、何の服を着ようかと考える、選ぶ、というところから、実は生きる喜びなんですよね。

 

小野寺 確かに。出勤前に自分の田んぼの様子を見に行くことに、小さな喜びを感じることがあります。

 

菅原 日常生活が生きるために必要な淡々とした活動であるならば、「非日常」がないと、日常が頑張れない。ここで言う非日常は、海外旅行のような大きなことじゃなくて「朝起きて好きな服を着る」とか、そういうレベルで良くて、日常と非日常がくるくる「回る」ことが大切なんです。でも、高齢になってくると、「好きな服を選ぶ」とか、そういうちょっとした非日常ができなくなり、QOL(生活の質)が下がっていく……。

 

小野寺 悪循環が起きていってしまいそうですね。

 

菅原 なので、レク介護士は、そこを「回す」お手伝いをしてあげる。例えば利用者様がデイサービスに行きたがらない時、「億劫なのかな」「それとも具合が悪いのかな」などと考えてしまいがちですが、案外、行きたくない理由は「家族にパジャマのまま出されたから」かもしれない。冷静に考えると、かつてのクラスメイトや先輩など、知り合いがいるかもしれないデイサービスにパジャマなんて嫌ですよね。そういうちょっとした所に気づいてあげて、「回してあげる」んです。

 

小野寺 いわゆる「レクの時間」ではない部分に役割があるんですね。

 

菅原 もはや朝迎えに行った時から回し始めます。ブラウスを褒めてあげることでスイッチを押す。そうするとその利用者様はご機嫌になって、他の誰かのスイッチを押す。で、ブラウスとかって、1回褒めると、毎週違うブラウス着てくるようになったりして、それってつまり、家での過ごし方も変わってきているってこと。今までの人生の中でやってきたことを、再び回し始めたっていうことであり、QOLが上がっていきますよね。

 

小野寺 次は何を着ていこうかなと考えることが非日常であり、小さな楽しみなんですよね。

 

菅原 結局、年に数回の大きなイベントだけじゃ頑張れないんですよ。大事なのは小さな非日常で、毎日何回そこを回せるのかでQOLが上がるということを学ぶんです。「1時間の集団レク」の時間のことばかり言ってる場合じゃないんです(笑)

 

【後編に続く】

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