(idea 2025年10月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

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~知られざる「獣医師会」の世界【前編】~

「動物福祉」を正しく認識するために

二言三言_トップ 一般社団法人岩手獣医師会一関支会 会長 佐藤敏彦さん(左) 獣医師 本江玄佳さん(右)

左:佐藤敏彦(さとう としひこ)

さとう動物病院(一関市宮下町)獣医師・院長。平成元年に同院を開業。令和7年度より岩手県獣医師会一関支会の支会長となる。

 

右:本江玄佳(ほんご はるか)

ほんご動物病院(一関市萩荘)獣医師・院長。平成13年に獣医師となり、平成17年より父が開業した同院を継承。平成26年より同院院長へ。

 


 

 

対談者 一般社団法人岩手県獣医師会一関支会長 佐藤敏彦さん 

                 一関支会員 本江玄佳さん

 

聞き手 いちのせき市民活動センター  センター長 小野寺浩樹

 

 


 

 大切なペットや家畜の健康を守るため、動物を飼養する人にとっては必要不可欠な存在である「獣医師」。市民にとって身近なのは動物病院ですが、動物の保健衛生の向上、動物の福祉・公衆衛生の増進等に寄与すべく、獣医師たちの多くは「獣医師会」に所属し、獣医師倫理の高揚、獣医学術の振興・普及等に通じる活動も行っています。その実情を2人の獣医師に伺います(2回シリーズの前編)。

 

 

小野寺 佐藤先生は岩手県獣医師会一関支会の支会長、本江先生は会員ということで、まずは会の概要を教えてください。

※ 2025年9月現在の会員数は、産業動物臨床(開業)10人、産業動物臨床(勤務)6人、小動物臨床7人、畜産・家畜衛生8人、公衆衛生4人の計35人。

 

佐藤 獣医師会は獣医師であれば入会できる会で、各都道府県にあります。入会は強制ではないですが、地方であれば多くの獣医師が入会しています。我々のような臨床で小動物を診ている方だけでなく、大動物、保健所の獣医師、公務員など、獣医師といっても多方面に存在するので、「産業動物臨床(開業/勤務)」「小動物臨床」「畜産・家畜衛生」「公衆衛生」と、部会を区分し、それぞれの職域別の事業を行っています。

 

小野寺 我々一般市民は馴染みのないような職域もありますね。

 

佐藤 そうですね。産業動物臨床は主に牛の診療です。個人で開業している獣医師と、農済などで勤務している獣医師がいて、当支会だと、開業医は高齢の先生が多くなっていて、所属はしていても実際に活動している方は半分くらいかもしれません。

※ 全国農業共済協会(NOSAI協会)。

 

小野寺 獣医師と言っても、専門があるわけですよね。

 

佐藤 はい、小動物と大動物はもちろん、大動物と言っても、馬と牛では全く違う生き物なので、牛は診れても馬は診れないという先生が多いです。今、当支会には馬が診れる先生はいないです。

 

本江 大学では一通り牛馬も習うんですが、卒業すると分かれてしまいます。そもそも獣医大学は戦争の時の軍馬関係がルーツなので、産業動物や畜産の勉強が主でした。小動物臨床はだいぶ最近のことで、僕の大学時代(平成10年前後)でも小動物臨床の授業はまだ少ない時代です。

 

小野寺 獣医さんなら動物は何でも診れると思ってしまいますが、そうではないんですね。

 

佐藤 家畜保健所から「ミニブタが診れる先生いませんか」という問い合わせがあったんですが、ブタはそもそも臨床の対象じゃないんです。ブタはあくまでも食用であり、畜産として、群れでの「管理」が基本です。診察しろ、というのは無理なんです。

 

小野寺 ブタは具合が悪くなっても、「治療」をするという概念がないということですか?

 

佐藤 伝染病等を防ぐ「管理」の対象で、個別の病気を「治療」するという対象ではないので、何かあれば「処分」の世界です。鶏なども一緒ですね。

 

小野寺 なるほど。最近ではペットとしてのミニブタがブームのようですが、ミニブタを動物病院に連れて来られても困るということですね?

 

佐藤 非常に困ります(笑)

 

小野寺 ちなみに爬虫類はどうですか?最近は市内のペットショップにも様々な種類が売られていますが……。

 

本江 爬虫類含め、いわゆるエキゾチックアニマルはペットとしての歴史も浅く、大学でも勉強しません。なので、卒業後に自分で勉強するしかないんです。

※ 明確な定義はないが、一般的なペットとして飼われている犬・猫以外の動物で、外国産の動物や野生由来の動物などを指す。ハムスター、ウサギ、ハリネズミ、フェレット、チンチラ、フクロモモンガなどの哺乳類から、鳥類、爬虫類、両生類のほか、魚類を含むことも。

 

佐藤 座学だけじゃなく、実際に自分で飼ってみながら勉強したという知人の先生(他県)もいますが、当支会にはエキゾチックアニマルを専門的に診れる先生はいません。

 

小野寺 実際、診てほしいと連れて来る人もいるのでは?

 

本江 問い合わせは多いですけど、僕はお断りしています。

 

佐藤 昔はトカゲや亀を診てあげたこともありましたが……。外傷的なものであればなんとか対応はできても、それ以上は厳しいですね。

 

本江 エキゾチックアニマルでも、例えばハムスターやモルモット、ウサギくらいはなんとか診ますが、シマリスとかはお断りします。ピョンピョン跳ねて触ることができない(診療できない)ですし、薬の処方も難しいし、やれることがないに等しいので……。なので専門外の動物は、診れないというより、診ないようにしています。必要に応じて、仙台などの専門の先生を紹介することもあります。

 

小野寺 小動物だからって、一括りにしてはダメなんですね。動物病院で診てもらえる領域を、我々市民も理解しておかないといけませんね。

 

佐藤 タヌキを連れてくる人もよくいるんです。道路で轢いてしまって……と、段ボールに入れて連れて来るんですが、「狸寝入り」だったのか、段ボールを開けた瞬間に飛び出てきたりして、ものすごく危険なんですよ。タヌキは爪も長いし。可哀想だと思っても、放っておくしかないんです。

 

本江 「落ちてました」と、巣立ちの時期に鳥のヒナを拾って連れて来る方もいますが、近くで親鳥が見守っていることが多く、ヒトの手で育てるよりも、親鳥に任せた方が生存率は高くなると言われています。むやみに拾わないでほしいのですが、どうしても気になる場合には、保健福祉環境センターに電話すれば指示をもらえます。

※ 当市の場合は「県南広域振興局保健福祉環境部 一関保健福祉環境センター(0191-26-1412)」へ。

 

佐藤 獣医師会の事業に「幼傷病野生鳥獣応急治療業務支援事業」があり、保護された野生動物の応急治療を行い、自然界に復帰させる支援をしています。注意してほしいのが、救護対象外の鳥獣もおり、タヌキやスズメは対象外です。対象外の鳥獣は自然の摂理に任せましょう。

 

小野寺 保護する動物にも見極めが必要ということですね。野生動物で言えば、最近は獣害が深刻ですが、獣医師会としては何か関わりはありますか?

 

佐藤 獣医師会の範囲ではないので、特に獣医師会としての動きはないですが、イノシシにやられた猟犬や番犬が連れて来られることはありますね。

 

本江 カモシカに攻撃されて大けがをした犬を診ることもあります。カモシカは時期によってすごく凶暴になるので、普段はただ庭先を通過するだけの個体が、庭にいる犬に吠えられたことで興奮し、攻撃したりすることがあるようです。

 

【後編に続く】


 

一般社団法人岩手県獣医師会HP

https://www.ivma.jp/