(idea 2025年7月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

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「支え合う地域」を作るための交通支援

~地域で運営するコミュニティ・カーシェアリング【後編】 ~

二言三言_トップ 猿沢カーシェア会の会長と、通院のため外出支援を利用する地域住民

猿沢カーシェア会の会長(写真右)と、通院のため

外出支援(運転代行)を利用する地域住民(令和7年1月の様子)。

 

 

小野寺伸幸

 令和6年10月に発足した「猿沢カーシェア会」を立ち上げるきっかけを作り、現在は同会会長を務める。「ふれあい交流館 なに~か・あ~る(令和4年6月オープン)」の運営組織である「ふれあい委員会」の代表を令和6年3月まで務めあげ、猿沢一区自治会の会長も担う(令和7年4月より)。大東町猿沢地域在住。

 


 

 

対談者 猿沢カーシェア会 会長 小野寺伸幸さん

 

聞き手 いちのせき市民活動センター  センター長 小野寺浩樹

 

 


 

「コミュニティ・カーシェアリング」は、 (一社)日本カーシェアリング協会※1(以下、協会)が広めている取り組みで、支え合う地域づくりを目的としています。市内で最も早く導入した「猿沢カーシェア会」でも、人件費は受け取らず燃料費などの経費のみを会員から預かる等、営利を求めない運営で活動しています。今回は、実際の運営方法や、支援で気づいた課題に触れていきます(2回シリーズの後編)。

 

※1 一般社団法人日本カーシェアリング協会は、車をシェアして支え合う仕組みを地域につくる「コミュニティ・カーシェアリング」のほか、災害時に車で困らない地域を作る「モビリティ・レジリエンス」、寄付車を貸し出すことで人と地域を元気にする「ソーシャル・カーサポート」など、寄付で集めた車を活用した社会貢献活動を行う非営利組織。

 

 

小野寺 前回は、導入のきっかけや、導入までの準備をする部会を立ち上げ、テスト運行の前段階まで体制を整えたところまで伺いました。協会へテスト運行サポートを依頼してからの流れをお聞かせください。

 

伸幸 まず、テスト運行説明会を令和6年8月に開催し、コミュニティ・カーシェアリングの利用を考えている地域住民や、スポンサー候補企業、一関市社会福祉協議会など、30人程度に参加していただきました。その後テスト運行を開始して、同年9月・10月と続けて利用者とドライバーの意見交換会を行い、いずれも協会のスタッフに立ち会っていただいて、質問に答えてもらったり、アドバイスを貰ったり。こぼれ話ですが、初代のリース車両は二駆だったので、今後の雪道に不安があることを協会に相談し、四駆に変更していただきました。現在の猿沢アッシーくんは二代目になります。

 

小野寺 そうだったんですね。テスト運行中に出た意見はどんな内容でしたか?

 

伸幸 テスト運行で設定した利用金額は、協会のひな型や公共交通機関の料金を参考にしてみました。選べるプランは2つで「定期買い物運行(往復六百円/片道三百円)」と「随時の通院や用足しの外出支援(5km以内片道三百円~30km以内片道二千円)」で、いずれも利用者一人当たりの金額になります。しかし、テストしていくうちに「一関方面まで買い物へ行くことが多いのに、一人往復四千円だと負担が大きい」という意見が出たので、一関方面は片道千円で済むように金額を設定し直すことにしました。

 

小野寺 通院や買い物などの外出支援で運転代行を依頼する際は、利用者の用足しが終わるまで、ドライバーが待機する時間が発生するということですよね?

 

伸幸 はい。意見交換会でもその話が出ました。そのため、現在(令和7年4月)の利用ルールでは「外出支援(運転代行)利用時の待機時間(=無料)は最大で3時間まで」とし、預かり金※2は「距離で計算する金額」と「1時間ごとに加算される金額」を比べて高い方の金額を預かるという仕組みにしています。通院に関しては、「通院する人とその付き添いの人」一人ひとりから預かることになると、猿沢内で往復千二百円もかかってしまうことに悩みまして、協会に相談しました。すると、他地域のカーシェア会では、「ホームヘルパーが同乗する場合は預かり金が発生しない」という事例があったため、私たちも「通院等付き添いの方のみ預かり金はなし」と改定しました。

 

※2  「猿沢カーシェア会」の会員は、利用の度に会の利用ルールに基づく「預かり金」を預けます。運用実費に対する不足分や余剰分は、定期的もしくは決算月に精算を行うこととしており、各会員は利用割合に応じた金額を負担します(令和7年4月現在)。

 

小野寺 なるほど。初めての試みはテストしてみないと分からないことが沢山ありますし、その都度柔軟に改善していったのですね。

 

伸幸 テスト運行期間が終了し、令和6年10月22日、猿沢地域のコミュニティ・カーシェアリングが本格導入となり、「猿沢カーシェア会」が発足しました。同日、運営スタッフ10名が、協会の研修プログラムである「コミュニティ・カーシェアリング地域サポーター研修」を受け、今後の運営に必要な知識とスキルを学んでいます。

 

小野寺 地域住民が待ち望んだコミュニティ・カーシェアリングが実際に始まり、感触はどうですか?

 

伸幸 「猿沢アッシーくん(リース車両)」を利用するためには当会の会員になる必要があるのですが、発足当初の2倍となる、100人に到達しそうな勢いで、会員が増加中です。今はひと月約20回の利用数ですが、利用予約が被ってしまったり、ドライバーの都合がつかない※3ことも増えました。その際は、利用できない旨を正直に伝えて、見送ってもらいます。運営スタッフも全員、会員として登録しており、ドライバーや予約受付、会計係もお世話人として手助けしているだけなので、会員のみんなが「出来ることを出来る範囲で協力する」というスタンスです。「当会が維持していけるかどうかは地域のみなさん次第です」と常に呼びかけています。

 

※3 「猿沢カーシェア会」の利用ルールにより、ドライバーの都合により運転代行にお応えできない場合があることや、ドライバーの体調が良くない時の利用は見送られる場合がある旨が定められている(令和7年4月現在) 。

 

小野寺 支援するほうが倒れてしまったら悪循環ですよね。現代では、支援されることを当たり前に感じている人が多い気がしますが……。

 

伸幸 当会のドライバーが、「自分の老後、いずれみんなにお世話になるのだから、自分が動けるうちは地域を支えたい」と話していて。そういう気持ちを次世代に伝えて、支え合う心を育てていきたいです。ドライバー側も「ありがとう」と感謝される立場にありますが、「支援してあげている」という気持ちになると「運転だけやればいい」と、目的を見失ってしまうことになるので、気を付けるように言っていますね。

 

小野寺 昔は助け合って生きるのが当たり前だったわけですし、コミュニティ・カーシェアリングだって現代の「ゆいっこ」ですもんね。

 

伸幸 そうなんです。これからは人口減少が加速し、公共交通機関の隙間ももっと大きくなるかもしれません。市街地以外では、自治会館の行事などに「歩いて行く」のは難しいのが現状です。「自治会長や集まりの代表さんが一人ひとりの家に車をまわしている」と聞いたこともあって、そこまでやると負担が偏るし、やることも増えていくと感じました。そういうときカーシェア会があれば、地域のみんなでコミュニティを支えることができる。買い物ツアーや通院の送迎が注目されがちですが、本来コミュニティ・カーシェアリングはコミュニティ形成が目的です。他地域のカーシェア会では会員がゴミ拾いボランティアや支障木の伐採などに取り組んでいる事例もあります。市内全域でこの取り組みが広がって欲しいと思っています。

 

小野寺 コミュニティを維持していく一つの手段であり、そのためにリース車両を共同利用する。あくまで地域の互助活動がメインで、それに外出支援を組み合わせて、継続的な支え合い活動を行っていくということですね。便利な時代が生んだ隙間を埋めるために誕生した貴会のように、いつの時代も、人が人を支えていく形を作っていかなければいけませんね。

 

 

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