仕事の流儀No.2「葉たばこ」前編

 かつては盛んだったはずが、今となっては希少になりつつある「お仕事」やその技術等を調査する「仕事の流儀」シリーズ。前回の養蚕ほどの希少さには至っていないものの、年々従事者が減っているのが「葉たばこ農家」です。県全体で見ると最盛期の3割程度までその数は減少。煙草の善悪とは関係なく、一つの「産業文化」の記録として「葉たばこ」に関するあれこれをご紹介します。

 ※記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。

 

日本のたばこの歴史

 コロンブスが新大陸を発見した際に、原住民の喫煙風習に接し、ヨーロッパへ苗や種が移入され、世界各地へ伝播されたとされる「たばこ」。

 

 日本への伝来は「天文年間に鉄砲とともに伝わった説」「慶長年間に西欧諸国(南蛮)から渡来した説」など、諸説あるものの、概ね16世紀~17世紀に伝わったと考えられます。以降、国内でも喫煙の風習が広がり、たばこの栽培が始まりましたが、たばこは風紀の乱れを招いたほか、主要作物の米ではなくたばこを栽培する農家が増えてしまったため、江戸幕府はたばこの喫煙や耕作を防ぐ禁令を何度も出したといいます。しかし、禁令下においても、たばこの流行は止まらず、次第に容認され、庶民を中心に嗜好品として広く親しまれるようになりました。

 

 明治期には、国家の財源確保のため「煙草税則(明治9年施行)」「葉煙草専売法(明治31年施行)」「煙草専売法(明治37年施行)」等により、たばこからの税徴収が導入され、国家でたばこ栽培から製造、販売まで全ての管理が始まります。

 

 昭和30年前後から日本が高度経済成長を経る中で市場開放を求める声や行財政改革の動きから昭和60年に専売制度が廃止され、日本たばこ産業株式会社(JT)が誕生。現在、日本でのたばこ耕作は、JTとの契約農家によってのみ行われています。

手間のかかる「葉のし」と呼ばれる作業風景(「せんまや街角資料館」館内写真より)

手間のかかる「葉のし」と呼ばれる作業風景(「せんまや街角資料館」館内写真より)

当地域における葉たばこ生産

旧東磐井地域でも、慶長年間~元和年間(17世紀前半)にたばこ耕作が始まったとされています(大迫地域と同時期)。

 

 明治30年には千厩に「大蔵省専売局千厩葉煙草専売所」が建築され、組合の設立普及を図ったこともあり、複数の耕作組合が誕生。  

 

 昭和30年、県立藤沢高校は「たばこ科」を設置(昭和38年廃科)、 同時期に岩手県も葉たばこを県の基幹作物へ。岩手県の葉たばこ出荷量は全国上位に位置づけます。

 

 昭和40年には県全体に2万7千戸近く、当地域にも6千6百戸を超す葉たばこ農家が。しかし、後継者不足はじめ様々な要因により、全国的にも昭和41年をピークに作付面積は減少をはじめ、平成30年には県全体の葉たばこ農家は994戸まで減少。当地においては、令和2年現在でわずか69戸。そのうちの68戸が東磐井地域です。

■盛り上がりは販売事業にも

昭和26年、一関たばこ販売共同組合は市内で「たばこ娘」を選出する美人投票を開催。また、たばこ販売促進のためにチンドン屋を先頭に街頭行進をするなど、生産のみならず、販売事業も大盛り上がりを見せたのでした。

■幻の銘葉「東山葉」

「東山葉」の葉(「せんまや街角資料館」館内写真より)

当地域で耕作された「東山葉※」は火付きの良さが好評で高値で取引されたのだとか。しかし、専売公社(国)の方針により、昭和45年に藤沢町の一部を残し、別の種子(白遠州種)へ転換(昭和61年にはさらにバーレー種へ転換)。在来種の生産を続けていた藤沢町も、昭和64年、ついにバーレー種へ転換することになり、銘葉と言われた東山葉の生産は終了しました。 

 

※ 狼河原(現宮城県登米市東和町米川)から藤沢に伝わった薩摩系種子。仙台領東山地方(東磐井郡および一関市舞川、平泉町長島、前沢町生母)では「東山葉」の総称で呼ばれたが、仙台領外では「河原たばこ」と呼ばれた。昭和38年に「松川葉」に名称統一。

\実はかなりすごい/

「せんまや街角資料館」(旧「千厩葉煙草専売所」)

せんまや街角資料館

 「葉煙草専売法」を明治31年に施行するに先立ち、明治30年、その担当部署として旧大蔵省が管轄する葉煙草専売所が全国61か所に設置されます。岩手県においては千厩と大迫の2か所に建築されました。

 

 この「専売局千厩葉煙草専売所」は、大蔵省臨時葉煙草取扱所建築部の標準設計として全国61か所全て同じ形の建物が建設されましたが、なんと、現存するのは千厩のみと報告されています。昭和9年に仙台地方専売局千厩出張所の建築に伴い、現在の場所に移築、平成16年までたばこ関連のほか、各団体の事務所として使用されました。

 

 平成17年からは、葉たばこに関する資料を展示する「せんまや街角資料館」として開館(当時の千厩町が設置)。同年、国の登録有形文化財に登録されました。

 

 内部は改修されていますが、外観や館内の一部には当時の面影が残っていますし、展示物を見ながら「子どもの頃に家の手伝いをした」と懐かしむ来館者も多いそうです。

「せんまや街角資料館」館内

館内にはたばこ関連の貴重な資料が展示されているほか、現在は地域の文化財や歴史などに関する資料も展示されています。

館内に保管されている貴重な「気象月報(日報)」

資料館には、貴重な「気象月報(日報)」など、当時のたばこ耕作の様子をうかがえる資料も保管されています。

■せんまや街角資料館

 一関市千厩町千厩字北方129-1

 Tel 0191-51-3883

 開館:火~日曜 9時~16時30分 (毎月最終金曜日は休館) 

県内には2か所のみ!「煙草神社」

煙草神社

 平成26年の調査によると、全国に40社程が確認されていたという「煙草神社」。葉たばこの主要産地において、各地区のたばこ耕作組合が主体となって創建された例が多いようで、その1つが千厩に!昭和16年、東山煙草耕作組合連合会が皇紀2600年奉祝記念事業として仙台地方専売局千厩出張所の隣地(現千厩図書館付近)に「煙草神社」として建立しました。建立当初は祈願祭、感謝祭などが盛大に行われていたのだとか。昭和25年に隣地に移築され、さらに昭和52年に「ホテル三島の湯」敷地内に移築。平成31年3月に管理も(株)ホテル三島の湯へ譲渡されました。

 ちなみに「一関煙草神社」もあったそうですが、現在は未確認とのこと…。


<取材協力> 岩手県たばこ耕作組合理事・煙草神社奉賛会会長 畠山信吾さん/せんまや街角資料館

<参考文献> 岩手県たばこ耕作組合連合会(1990)『岩手県たばこ史』/

       岩手県たばこ耕作組合東山支部(1992)『東山たばこ記念史』/

       東磐史学会(1988)『東磐史学 第十三号』/東磐史学会(2012)『東磐史学 第三七号』/

       岩手県南史談会(1962)『研究紀要(第六集)』/

       一関たばこ販売共同組合(1975)『一関たばこ販売共同組合の歩み』

後編(2021年3月号掲載予定)は葉たばこができるまで!

「仕事の流儀」シリーズの名にかけ、葉たばこ農家さんの努力や技術をお届けすべく、

1年をかけて現役のたばこ農家さんに密着取材をしております。種まきから出荷まで、葉たばこ農家さんの1年をレポートとしてお届けしますので、どうぞご期待ください!

栽培中のたばこの葉

↓実際の誌面ではこのように掲載されております

idea2020年6月号 自由研究 誌面P13P14

 

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