※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
(idea2023年月7月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
当センタースタッフが室根地域で見かけた黒板に書かれた2つの図形。それぞれの横に「仏」「祝」と書かれており、聞けば「凍み豆腐の切り方」だと言うのです!冠婚葬祭にまつわる風習は様々ありますが、食材の切り方にも風習があることを知り、凍み豆腐以外にもあるものか、調査をすることに。祝儀・不祝儀で切り方が異なる食材や、使用する材料が持つ意味など、調理にまつわる習わしには地域性があるのでしょうか?それとも……?
(記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果)
「煮しめ」に見る習わし
「祝儀・不祝儀によって、食材の切り方が異なる料理があるらしい」という認識を持った我々。該当する料理は何かヒアリングをしていくと、「煮しめ」に辿り着きました。
冠婚葬祭に関連する食事が、会館や仕出し等の利用ではなく、各家で行われていた時代、大量に作ることができる「煮しめ」は、祝儀・不祝儀どちらにも欠かせない料理の一つであり、お膳とは別に用意され、参列者だけでなく、お手伝いの人たちにも振る舞われていたのだとか。
しかし、同じ「煮しめ」でも、使用する材料や、それぞれの材料の切り方に、祝儀・不祝儀による違い(調理法の習わし)があるというのです。こうした違いは、「煮しめ」とセットで用意されることが多い「おふかし」にも!
左頁で詳しく紹介しますが、そのポイントは「色」「数」「名前」に由来する「ゲン担ぎ」もしくはその逆、ということが、ヒアリングによって見えてきました。
◀ きっかけとなった板書。室根第2区自治会の自治会館にて。
「こだわり」を演出する?
これらの習わしは、何を起源・由来とするのか、文献等で探してみるも、意外なほどに該当する記載が見つかりません。当地域では「小笠原流」の婚礼儀式が江戸末期に一般庶民にも定着し、昭和中期頃までそれらが行われていたため(本誌2021年7月号でも紹介)、その影響を疑いましたが、関係は見つけられず……。
そこで、「誰から教えられたか」をヒアリングしていくと、回答の多くは「本家の女性」でした。会館等ではなく、「家」で冠婚葬祭の儀式を行っていた昭和40年代頃までは、その調理を取り仕切っていたのは「本家の女性(もしくは親類縁故の年長女性)」だったのです(婚礼の場合は、「めんばんし」と呼ばれる集落内の料理人の場合も)。
「家」で客人をもてなすためには、多くの「お手伝い」が必要であり、近隣住民や縁故関係の女性によって調理が行われます。この時の中心になるのが「本家の女性」で、献立を考え、食材や調理方法の指示・伝授をしました。
その内容が家や集落で伝承(口伝)されてきたと考えられますが、婚礼儀式のような「一貫性」が薄いのです。そこから推測するに、調理にまつわる「習わし」は、由来や起源として共通する明確なものはなく、各家の「こだわり」や「おもてなしの気持ち」を表現するために、本家女性が様々な知識を駆使して生み出したものであり、料理の付加価値のようなものなのかもしれません。
「家」で行う「祝儀」「不祝儀」の
「煮しめ」を再現してみた
祝儀・不祝儀によって、使用する具材や食材の切り方が異なることが多かったという「煮しめ」。各家によって考え方や切り方は様々ではあるものの、大東町食生活改善推進員の役員有志のみなさんにご協力いただき、ヒアリングでの共通事項が多かった調理方法で、再現してみました!
冠婚葬祭の儀式を家で行っていた当時(概ね昭和40年代頃まで)に、お膳とは別に作られていたという「煮しめ」と「おふかし」「たくあん」の3点セット。左が婚礼などの祝儀用で、右が葬儀などの不祝儀用です。
まず意識するのが、具材の数。祝儀の場合、「煮しめ」に使われる具材は7品もしくは9品と奇数になるように調達します。これは「割れない数」にすることで、「別れ=離婚」を連想させないためなのだとか。今回は「大根、人参、里芋、牛蒡、こんにゃく、凍み豆腐、昆布」の7品で作りました。同じ奇数でも、「3」という数字は「3切れ=みきれ=身を切る」という連想から、具材を盛り付ける数などが3にならないようにするそうです(たくあんを取り分ける際に、3切れにはしない、など。※あくまでも各家の考え方によります)。
また、祝儀の場合は彩りを大事にしますが、不祝儀では赤い食材を避けるために、人参は使用しない家もあったようです(人参の収穫・保存時期にも関係?)。「おふかし」も同様に、祝儀では赤飯(小豆のほか、食紅も使用)ですが、不祝儀では白インゲン豆を用い、色味をもたせなかったようです。
昆布
「よろこんぶ」という語呂合わせから、古くから縁起が良い食材とされます。「結び昆布」にすることで、「固く結ばれる」として、さらに縁起が良いイメージに。「子生婦」と書いて子孫繁栄の意味合いを持たせることも。そうした縁起物であることから、不祝儀では避けられ、出汁を取るためにしか使用しないそうです。
凍み豆腐
三角に切ることが多い凍み豆腐。三角は、永眠した方の額に巻く「天冠 (三角形をした布巾)」を連想させるため、不祝儀では問題がないですが、祝儀ではそのイメージをなくすため、三角にならないような切り方をします。
「角を落とす」という意味も。
◀縦半分に切った後、頂点をずらしてななめに切るなど、
三角にならないように工夫。
こんにゃく
祝儀では「手綱切り(こんにゃくの中心に切れ目を入れ、切れ目の中に一方の端をくぐらせてねじりを加える)」にすることで、「結び目」を連想させ、「良縁成就」の意味を込めるとのこと。
人と人とのつながりや結びつきに恵まれ、円満な人生が巡ってくるように…とのゲン担ぎです。不祝儀では手綱切りはせず、三角にします(凍み豆腐参照)。
根菜
彩りを添えるため、祝儀では人参などを飾り切りにしたり、里芋も六角形に、大根も面取りをします。煮崩れ防止の意味もありますが、「角が立たないように」というゲン担ぎや「手間をかけて準備した」というアピールにも。不祝儀は「急なことなので」と、単純な切り方をします。
婚礼は食材が豊富な時期に?
上頁で紹介しているように、祝儀の際に調理される「煮しめ」は、それぞれの食材に一工夫が盛り込まれた手が込んだものです。反対に、不祝儀では、野菜の面取りなどはせず、こんにゃくや凍み豆腐も単純な三角形。当地域では「煮しめ」同様に冠婚葬祭共通で調理されることが多い「雑煮」で見ても、祝儀では細かく千切りにされた「ひきな」、不祝儀ではイチョウ切りです。こうした違いは、婚礼などの祝儀は、事前に日程が決められているため、手の込んだ準備ができるのに対し、葬式などの不祝儀は予期せぬ出来事であり、準備期間がない(ことを象徴するため)ためだと言います。
現代のように通年で野菜等が出回っていない時代には、婚礼儀式は食材(根菜類)が豊富で、準備にもしっかりと時間がかけられる(紅白の「なると」等、調達しなければならない食材が多々)農閑期(‘さなぶり’の時期や、11月~3月頃)に行われることが多かったようです。
なお、不祝儀の際には、各家庭から野菜を持ち寄って対応していたそうで、「香典帳」ならぬ「野菜帳」が存在していたという話も。「食材調達」の大変さが伺えます。
<参考文献・論文(Webサイト)> ※順不同
岩手県食改善推進委員団体 連絡協議会大東支部(2002)『人生の食歳時記ー結いと家族の絆がもたらす食卓』
奥玉村誌「まとめる会」実行委員(1987)『奥玉村誌』
真滝村誌復刻委員会 蜂谷艸平(2003)『復刻真滝村誌』
黄海村史編纂委員会(1960)『黄海村史』
)岩手県千厩町磐清水公民館(1957)『磐清水村村誌』
東山町史編纂委員会(1978)『東山町史』
<調査・協力いただいた方々>
大東町食生活改善推進員の役員有志
佐藤律子さん、佐藤眞里子さん、伊藤芳子さん、平岩愛子さん ほか
大東・東山地域の各市民センター職員の方々
その他、調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました!
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。