(idea 2021年10月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

二言三言 143/115129

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「譲る」も「続ける」も覚悟をもって

~農地は‘限られた資源’【後編】~

一関市農業委員会で新潟市農業委員会を視察した際の様子(起立しているのが伊藤公夫さん)
一関市農業委員会で新潟市農業委員会を視察した際の様子(起立しているのが伊藤公夫さん)

一関市農業委員会 会長 伊藤 公夫さん

 平成24年9月から令和3年9月19日まで、一関市農業委員会会長を3期9年務める。高校卒業後、1年間の専業農家を経て、公務員となるが、以降も兼業農家として農業(水稲)に従事。東山町松川三室出身・在住。昭和18年生まれ。

対談者 一関市農業委員会 会長※ 伊藤公夫さん  ※令和3年9月19日で任期満了

 

    

聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹

 「農地法」に基づき、田や畑、採草放牧地の売買・転用には様々な規制があります。その目的は「農地等の利用の最適化」であり、「農業委員会」がその推進役を担っています。「先祖代々の土地を守る」という観点と、「限られた資源である農地を最適に利用する」という観点、そのどちらも大切にすることはできるのでしょうか?(2回シリーズの後編)。

 

 

 

小野寺 農地の集積・集約化を図る地域が増えてきましたね。

 

伊藤 遊休農地の発生防止・解消につなげるため、農業委員会としても基盤整備事業を契機とした集落営農組織の立ち上げや、若い担い手への農地の集積・集約化を推進しています。ただ、現状はそうした組織のリーダーは70代が多く、組織の維持に不安を抱えている地域が多いです。

 

小野寺 今の世代だけで止まってしまっては意味がないですから、生産組織で新卒職員を採用するような考え方が必要ですよね。

 

伊藤 農業委員の中にも生産組織の代表をしている人が複数いますが、みんな悩みはお金がないこと。農地が大きくなれば機械も大きくなり、機械が大きくなればオペレーターが必要になる。いかにしてオペレーターの人件費を捻出していくかに頭を悩ませているようです。

 

小野寺 確かに、オペレーターは若い世代じゃないと厳しいですしね。ただ、自分で農業をやるより、そうやって請負耕作をした方が良いという人も増えているのではないでしょうか?

 

伊藤 そう、請負耕作やった方が儲かるからね。過去に大冷害でいもち病が大発生した時、農家もタイ米を食べなければいけない惨めな思いをしましたが、請負耕作の人は関係なかった。請負った分の賃金は現金収入だし、収入の見通しも立てやすい。

 

小野寺 昔は結で賄ったものを、今はカネ計算。「一回なんぼ」の世界になってしまい、「ぎりすび」じゃなくなってしまいましたよね。

 

伊藤 水稲農家の辛さは、1年に1回しか収入がないこと。だから昔は、どこの農家でも換金作物として養蚕をやったんです。家族労働力さえ確保できれば、養蚕は良い収入源なんです。私は農蚕科(※1)を専攻しましたし、我が家でも養蚕をしましたが、年間で5~6回「掃き立て」(※2)をすれば、繭を売ったたびに収入が入り、「今度は野球帽を買ってあげる、次は靴ね」と。なので小学生でも手伝いました(笑)

 

※1 現在の岩手県立千厩高等学校に昭和23年にできた科。同学校の前身は「岩手県立農蚕学校」。

 

※2 種紙に張り付いている蚕種(卵)から生まれた幼い蚕を、蚕箔などの上に落とす作業のことで、実質的に蚕を飼いはじめることを指す。

 

小野寺 そういう家内制手工業がなくなったのは寂しいですね。

 

伊藤 葉タバコも契約栽培だから、収入は良いんです。米が1反歩15万円程度なのに対し、葉タバコは1反歩40万円。捨てられない基幹産業だったんです。それが働き手がないことで、耕作放棄地になってしまった。東磐井地域の遊休農地の多くは葉タバコと養蚕です。

 

小野寺 農業委員会ではそうした遊休農地に対してどういった対応を行うのですか?

 

伊藤 状況に合わせてですが、「農地中間管理機構」(※3)に委ねて、適正に農地を維持してくれる人を探すように促します。

 

※3 「農地バンク」とも呼ばれ、都道府県に1つ設置されている。岩手県では「公益社団法人 岩手県農業公社」が指定を受けている。

 

小野寺 農地の貸し借りを仲介してもらうということですか?

 

伊藤 はい。現に私も田河津の若者に8反歩貸しています。私の住む三室は、猊鼻渓の水だし、日照りの心配もなく、土地は良い。ただ、20町歩の農地に60戸の農家がいるので、1戸平均4反歩にもならず、農業で食べていける人はいないんです。なので、後継者がおらず、中間管理機構を経由して農地を使ってもらっている人が多い。三室の半分近くの農地を、その田河津の若者が経営しています。

 

小野寺 中間管理機構を通して、他地区の農地を借りて農業をする人が増えているんですか?

 

伊藤 そうですね。土地改良区の水利費や固定資産税は自作者(土地の所有者)が払うので、借りる方には負担が少ない。貸す方はプラマイゼロに近いですが、先祖代々の土地が動かないでそこにある、ということに意味があるわけです。

 

小野寺 「農業所得をあげる」ことより「農地を守る」という感覚ですよね。私も父親の他界で水稲栽培を代替わりしましたが、「農地を継いでいく」という「意地」だけでやってるような状態です(笑)営農組織に頼んでいる土地もありますが、先祖代々の土地を守っているということにはなってますからね。

 

伊藤 ただ、守っていくことと同時に、将来どうするのかも考えなければいけない。後継者が来る見込みもない土地にしがみつき続ける人も少なくない。3日畑に行かなかったら草はボーボーになる。30年後にやる人がいるならまだしも、見込みがないのなら、しがみつく意味を考えなければ……。

 

小野寺 農業委員会は「先祖代々の土地を守れ」という指導ではなく「維持できないなら手放せ」という方向ですか?

 

伊藤 自立できる適正な農業者がいるのなら、その人に委ねた方が良い、という考えです。農地法では、農地を「現在及び将来における国民のための限られた資源」かつ「地域における貴重な資源」としています。個人のものという考えではなく、資源を有効に活用するという視点が重要なのではないでしょうか。

 

小野寺 中途半端にすることが一番良くないということですね。

 

伊藤 Uターンで就農して、トマトで1千万円稼いでるような農家も増えています。そこまでこぎつけるには、技術というより、覚悟や度胸です。

 

小野寺 苦しくても続ける人、借りてやる人も覚悟、貸したり、手放す人も覚悟。昔ばかり見ているのではなく、先を見据えて「覚悟」を決めるということが大事なんでしょうね。

 

伊藤 今、全国で「人・農地プラン」の実質化が進められています。当市においても、「地域農業マスタープラン」として、地域毎に「誰が農業を担っていくか」「誰に農地を集積・集約していくか」の話し合いが行われており、当委員も参加しています。こうした機会に、集落として、農地のこれからを考え、「覚悟」を持って実行に移していって欲しいですね。

 

 

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