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(idea2023年月3月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

くらし調査ファイル№21「年(歳)神様の迎え方①」

 当地域には様々な「お正月の風習」があります。その中で、各家や地域によってその形態や方法に大きく違いがあるのは「松飾り」や「しめ縄」など、「御年(歳)神様(以下、年神様)」をお迎えするための風習です。もはや「年神様をお迎えするための習わし」という意識ではなく「お正月飾り」として行っている家の方が多くなってきていると思われる現代、当地域における実態や地域性の有無などを調査してみました。

(記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果)

 

■門松=御年神様の依り代

 「年神様をお迎えする」という習わし(年神様信仰)は、古くから日本全国で行われてきたもので、当地域では「オト(ド)シナ」「オトシガミ」などと呼称します。年神様をお迎えすることは、新しい年の福を授けていただくとともに、当地域では年神様を穀物神と考えることも多く、豊作祈願の意味合いもあったようです。

 

 年神様は「松」を目印にやってくるとされ、この年神様を家の中にお迎えすることで、福を授けてもらうのです。そのため、家の入口や門に松を取り付け(門松)、年神様の依り代とします。

 

 古くは杉なども用いられていましたが、次第に「神が宿る木」と考えられていた松に限られるようになります(農村では平安時代末期から)。松は門前に左右一対「並べる」のが一般的で、向かって左側の松を雄松、右側を雌松と呼びます。現代のような玄関前や門前の左右に一対「立てる」ようなタイプは江戸時代頃からのようです。

 

 当地域の一般家庭では、古くから門松と称し、「シノ杭(杉の木)2本の回りを、割った栗の木で巻きしめ、縄を張った(舞川地区)「松・栗・竹を使い、門口に向かいにして立てた(山目地区)「切ってきた松を玄関の左右に飾りその間にしめ縄を張る(旧東磐井地域)など、家や地域それぞれの形態で年神様の依り代を用意してきました。

 

 現在でも門松を門柱や玄関に用意する家が当地域内に確認できますが、「年神様の依り代」という意識で門松を用意する家は極少数というのが実態です。ただ、年神様の御神像(御札のようなもの)を神棚等にお迎えする家は多く、年神様信仰そのものは各家で継承されているようです。

 

■「しめ縄」から「しめ飾り」へ

 

 門松と同様、年神様を迎えるにあたって準備されるのが「しめ飾り」です。自分の家が年神様を迎えるにふさわしい神聖な場所であることを示す、もしくは不浄なモノを寄せ付けないために、玄関や神棚、床の間などに「しめ縄」を張ったのが始まりといわれます。 

 

 かつては、家長が「しめ縄」を張る役目を担いましたが、時代と共に簡略化され、「しめ飾り」になったのだとか。「輪飾り」や「牛蒡じめ」などが「しめ飾り」のオーソドックスなものですが、そこに年神様への「お供え」要素を加えたものや、デザイン性を持たせたものなど、現在では「商品」としてスーパーマーケット等でも販売されています。

 

 当地域では、「しめ飾り」に若干の地域性が見られ、東磐井地域では「しめ縄」に「サゲ」をつけ、松や「紙垂(しで)」等を挟み込んだものが多く、西磐井地域では先述のタイプがほぼ見られない代わりに、「牛蒡じめ」が多いようです(下記参照)。

 

 

 

 

 

 

しめ縄の間に紙垂と松を挿すが、その数は様々な謂れがあり、家や地域によって違いがある(次号で詳しく紹介!)。

 

 

 

 

西磐井地域に多いが、東磐井地域でも見られる(多くはない)。農家などでは、玄関の他に小屋等の各入口につける。縦につける家が多いが、全国的には横向き⁉

 

 

 

 

 

 

「先を見通す」として全国的に作られている型だが、当地域では少ない。花泉地域で「昔はこんな感じだった気がする」と言う人が数人いた(実態は不明)。

 

 

 

門松」と「しめ飾り」の「地域性」を探ってみた

 

 実は令和4年と令和5年の2年に渡り、密かに市内各地の「門松」「しめ飾り(縄)」をリサーチしていた我々(正確には2度のお正月)。目視+各地でヒアリング(約40人)も行い、文献調査も加えたところ、ある程度の地域性が見えてきました。

 

 ただし、上述のように、「年神様をお迎えするための習わし」という認識は薄れており、一つの「慣習」「風習」として、その「やり方」が伝承されているというのが実情。とは言え、「慣習が残っている」という事実も一つの「地域性」と捉え、ご紹介します。

 

\神社によってデザイン多様/

年神様御神像について

 当地域にも、年神様の御神像を神棚等にお祀りする家が多くあります。この御神像は各神社からいただくものですが、その歴史について、花泉町老松の御嶽山御嶽神明社の佐藤宮司は「神社は住民の信仰をサポートする役割。ニーズがあったので神社が御神像を用意するようになったと思われるが、紙の普及が前提なので、早くとも江戸時代以降ではないか」と分析します。

 

 平成24年発行の文献(※)には「近年では環境保護の観点などから都市部を中心に生木の松ではなく門松の飾りを印刷した紙を入口の戸などに張る例も増えている」という記載も。当地域においては、環境保護と言うよりは、松を確保することが難しくなったことが御神像の普及に少なからず影響があることも考えられます。

 

 ちなみに、岩手県神社庁にヒアリングしたところ「確かに門松の代わりに御神像……という感覚もあるかもしれないですが、御神像そのものは依り代ではなく、年神様そのものに近い。門松でお迎えした上で、神棚に御神像をお祀りするのが良いかもしれないが、正解はないので、それぞれの家のお祀りの仕方を大事にしてください」とのことです。 

著者/福田アジオ・菊池健策・山崎祐子・常光徹・福原敏男(2012)『知っておきたい 日本の年中行事事典』


▲御神像には『古事記』に記載の男神・オオトシノカミの姿が描かれているものや、松やしめ縄、お供え物などだけが描かれているものなど様々。

 

\各家に伝わるやり方を大事にいつつ/

西磐井東磐井られる傾向

 大前提として、年神様の迎え方に「正解」はありません。神社が御神像の祀り方を教えてくれることはあっても、門松やしめ縄に関しては、「民俗学的要素」であり、風習です。『一関市史』にも「門松は家風によって同一ではない。戦国時代の遺制をそのまま家風にしたと思われる」という記載があり、家々で継承されてきたやり方が、集落へと広がっていったものと推測されます。

 

 そのため、地域性というよりも「傾向」程度の表現が近いというのが今回調査の結論ですが、西磐井地域では「牛蒡じめ」と「松の枝を直接供え付ける」というスタイルが比較的多く見られ、東磐井地域では「しめ縄」に「サゲ」や御幣束、松の葉を挟み込んだ「しめ飾り」が多いように見受けられました。また、竹や南天などを松と一緒にする家もありましたが、地域性までは感じられませんでした。

 

 東磐井地域では、この「しめ飾り」そのものを「オドシナ」と呼ぶ傾向があり、御年神様からの派生とも想像できますが、真相は不明です。

 

 「牛蒡じめ」や「しめ飾り」はかつては家・集落などでの手作りだったようですが、現在は市販品を購入する家が多いのが実情。どちらかと言うと東磐井地域の方が、手作りする機会(講座等含め)が多いように感じました。

 

 

 



 

 

 

 珍しいものをいくつかご紹介!

 

▲水引を結んだ松を神棚の近くに 設置(花泉町永井)。
▲水引を結んだ松を神棚の近くに 設置(花泉町永井)。
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▲「根引松」と呼ばれる、根がついた状態の松に水引を結んだもの。雄松(向 かって左)が黒松、雌松(同右)は赤松。京 都の旧家などで引き継がれるもの(一関市※家の慣習ではなく、いただいたものとのこと)。
▲「根引松」のアップ
▲「根引松」のアップ

▲海老を模したしめ飾り。気仙沼などに多いらしい(室根町津谷川)。
▲海老を模したしめ飾り。気仙沼などに多いらしい(室根町津谷川)。

 

次号ではさらに詳細な調査結果をご紹介!

<参考文献(Webサイト)> ※順不同

小岩浩一郎/千葉庄松(1955)『萩荘村史』/一関市史編纂委員会(1977)『 一関市史 第3巻各説Ⅱ』

室根村史編纂委員会(2004)『 室根村史 下巻』/大原役場(1931)『大原町誌 上巻』

萩荘文化協会/萩荘編さん委員会(1991)『萩荘史』

真滝村誌復刻委員会 蜂谷 艸平(2003)『復刻 真滝村誌』

門崎村(1956)『門崎村史』/磐清水村編纂委員会(1957)『磐清水村誌』

津谷川公民館(1966)『郷土史(民族)』

監修/服部幸慶(医学博士・服部栄養専門学校校長)・市田ひろみ・山本成一朗/発行者/納屋嘉人(2006)『ニッポンの名前 和の暮らしモノ図鑑』

監修/谷田貝公昭/共著者/長沢弘ひろ子/本間玖美子/高橋弥生(2006)『イラスト版子供の伝統行事 子どもとマスターする40の行事●その由来とやりかた』

編者/飯倉晴武(2003)『日本人のしきたり』

編者/田中宣一・宮田登(2012)『三省堂年中行事事典〈改定版〉』

著者/森須磨子/編集/田辺澄江(2017)『しめかざり 新年の願いを結ぶかたち』

※著者/福田アジオ・菊池健策・山崎祐子・常光徹・福原敏男(2012)『知っておきたい 日本の年中行事事典』

 

<取材協力>

 大東町 小山 文吾さん 

 東山町 岩渕 松雄さん

 

その他、調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました! 

↓実際の誌面ではこのように掲載されております。

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